若 菜 摘
天保十一年(1840)三月
作詞 二代目 桜田治助
作曲 二代目 杵屋勝五郎
〈本調子〉 
君に若菜をすすむること 寛平延喜の御代に始まり 天暦四年如月にも 女御安子の奉る 
ななに数そふ十二種の 色くらぶなる若菜人 幾千代も変らぬためし妹と背の 
睦みなつみて春日野の 若紫の恋衣 忍ぶの乱れ限りなく 深き思ひを筒井筒 
うつり心と初めから うき水茎の筆茅花 心根芹に立ちあかし 待つに甲斐なき偽りの 
いつあふひとのよすがさへ なづなうらみて片山雉子 鳴く音にもゆる早蕨の 露に綻ぶ風情なり 
花の濃染の色わけて 紅梅殿や老松の 緑の空に誓ひして 契り情けの一と夜松 薄雪消えて如月に 
立ちわたり舞ふ雲の袖 和光の影も曇りなき 春日松尾の二つ神 分身威明の姿を現はし 
供御をそなへてその儘に 神は上らせたまひけり 神は上らせ給ひけり