執着獅子
宝暦四年(1754)三月

作曲 初代 杵屋弥三郎
〈三下り〉 
花飛び蝶驚けども人知らず 我も迷ふや様々に 四季折々の戯れは 蝶よ胡蝶よ 
せめて暫しは手に止まれ 見返れば花の木陰に 見えつ隠れつ羽を休め 姿やさしき夏木立 
心尽しのなア 此の年月をえ 何時か思ひの晴るるやと 心一とつにあきらめん 
よしや世の中 短か夜の 夢はあやなし其の移り香の 憎くて手折ろか主なき花を 
何のさらさらさらさら さらに恋は曲もの 露東雲の草葉に靡く 青柳のいとしをらしく 
二つの獅子の身を撫でて 頭をうなだれ耳を伏せ 花に宿かる浮世の嵐 
あなたへ誘ひ此方へ寄りつ 園の胡蝶に戯れ遊ぶ 己が友呼ぶ獅子の狛 [楽合方]

花にうつらふ 恋の胡蝶の舞の袖 恋すてふ 比翼連理のかわゆらし 大宮人の庭桜 
檜扇かざす緋桜の 地主の桜や瀧桜 月の影さへ明石潟 人丸桜袖硯 筆の命毛墨桜 
誰が小桜や憎からぬ 姥桜花さくら 名取の里に弾く三味の 手鞠桜のはずみよし 
思ひ初めたよ糸桜 君の名のみきく桜 二人が恋の山桜 祈る誓ひも伊勢桜 色も変らぬ紫の 
江戸桜家さくら 面白や 時しも今は牡丹の花の 咲きや乱れて 
散るは散るは散り来るは 散るは散るは散り来るは ちりちり散りかかるやうで 
おいとしうて寝られぬ 花見て戻ろ 花見て戻ろ 花には憂さをも打忘れ 人目忍べば恨みはせまじ 
為に沈みし恋の淵 心からなる身の憂さを やんれそれはそれはえ誠 憂やつらや 
朝な夕なに 写す鏡のよい金性と わしは水性でお前と深い それを疑ふことかいな 
さらりと柳にやらしゃんせ 柳に柳にやらしゃんせ 思ひ廻せば昔なり 
牡丹に戯れ獅子の曲 実に石橋の有様は 笙歌の花降り 簫笛琴箜篌 夕日の雲に聞ゆべき 
目前の奇特あらたなり 暫く待たせ給へや 影向の時節も今幾程によも過ぎじ [狂ヒ合方]

獅子団乱旋の舞楽のみぎん 獅子団乱旋の舞楽のみぎん 牡丹の英にほひ満ちみち 
大巾利巾の獅子頭 打てや囃せや牡丹芳 牡丹芳 黄金の蕊現はれて 花に戯れ枝に臥し転び 
実にも上なき獅子王の勢ひ 靡かぬ草木もなき時なれや 
万歳千秋と舞納め 万歳千秋と舞納め 獅子の座にこそなほりけれ