賤 苧 環
明治四十一年(1908)十二月
作詞 菊地武徳
作曲 五代目 杵屋勘五郎
吉野山 峰の白雪ふみわけて 峰の白雪ふみわけて 入りにし人ぞ恋しき

〈本調子〉 
恋衣いとど露けき旅の空 身の終りさへ定めなく 東路さして行く雲の 
箱根を後にこゆるぎや はや鎌倉に着きにけり これは静と申す白拍子にて候 
さてもこの度 鎌倉殿御所望にて 妾にひとさし舞ひ候へとの御事にて候 
思い出づれば在りし世の 栄華の夢や一ト時の花に戯れ月に舞ふ 
さす手引く手はかはらねど かはる浮世のうきふしを 忍び兼ねたる時の和歌 

〈二上り〉 
賤やしづ 賎のおだまき繰り返し 昔を今になすよしもがな 知勇すぐれし我が君の そのいさほしの

〈本調子〉 
かひまさで 鎌倉山の星月夜 いつしか曇り思はずも 千代を契りし仲つひに 
遠く隔つる雲霞 かかる浮き身ぞただ頼め しめじが原のさしも草 
われ世の中にあらん限りは 守らせ給へ君の行く末 昔を今にかへす袖 おだまきならで玉の緒の 
絶えなばたえよ誓いてし 清き心を白拍子とは誰がなづけけん語り草 
大和撫子敷島の すぐなる道に逢竹の 節面白き今様を またくり返し謡ふ世の 
深きめぐみぞありがたき 深きめぐみぞありがたき