七 福 神
年代不詳
作詞 不詳
作曲 初代 杵屋宇右衛門か
〈本調子〉 
それ伊弉諾伊弉冉夫婦寄り合ひ 漫々たる和田津海に 天の逆鉾下させ給ひ 
引上げ給ふそのしたたり 凝りかたまって一つの島を 月読日読 蛭子素盞鳴儲け給ふ 
蛭子と申すは恵比寿のことよ 骨なし皮なしやくたいなし 三歳足立ち給はねば 
手繰りくりくる来る船に 乗せ奉れば蒼海原に 流したまへば 海を譲りに受取り給ふ 
西の宮の恵比寿三郎 いともかしこき釣針おろし 万の魚を釣りつった 姿はいよ扨しをらしや 

〈二上り〉 
引けや引け引け引く物品々 様はきはずみ琵琶や琴 胡弓三味線東雲横雲 
そこ引け小車 子供達ゃ御座れ 宝引しよ宝引しよと 帆綱引っかけ宝船曳いて来た 
いざや若い衆網引くまいか 沖の鴎がぱっと ぱっと立ったは三人張強弓 
よっ引絞りにひゃうふっと射落とせば 浮きつ沈みつ 浪に揺られて 沖の方へ引くと 
水無月なかば祇園どのの祭で 山鉾飾って渡り拍子で曳いて来た 拍子揃へて打つや太鼓の音のよさ 
鳴るか鳴らぬか山田の鳴子 山田の鳴子 引けばからころ からりころり 
からりころり からころからころからころや 
轡ばみ揃へて神の神馬を引連れ引連れ 勇みいさむや千代の御神楽 
神は利生をつげの櫛 神は利生を黄楊の櫛 引注連縄の長き縁を

(歌詞は文化譜に従い、表記を一部改めた)
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現在に伝わる長唄の中では、最も古いとされる曲のひとつです。
「七福神」という題名にもかかわらず、歌詞に登場するのは恵比須ひとりだけ。
古代神話で海に棄てられた蛭子という神様を、福をもたらす恵比須様の正体として紹介しています。
歌の後半は「引く」という言葉に関連のある事柄を集めた「ひくものづくし」。
赤い雲がたなびく夜明けの空は、新しい一日の始まり。
荷物を積んだ車に、七福神が乗った宝船。
豊かな恵みに世は栄え、若い衆が引く網は大漁を、山田の鳴子は実りの秋を連想させます。
お正月の宝引、祇園祭の山鉾引き、神楽に勇む神馬……、なんだかわくわくしませんか?
長唄の中で最も長く唄い継がれてきたこの曲は、
人々の心をはずませ、幸せを引き寄せる、めでたいものづくしの曲でもあるようです。



【こんなカンジで読んでみました】

むかしむかしの神代の話。
イザナギ・イザナミは夫婦になろうと語り合い、はるばる広がる海原に、天の逆鉾をお下ろしになった。
引き上げなさった鉾の先から、ぽたぽたしたたる雫はやがて、一つの島になったとさ。……


■「七福神」の解説・現代語訳・語句注釈のつづきは、

『長唄の世界へようこそ 読んで味わう、長唄入門』(細谷朋子著、春風社刊)

に収録されています。
詳しくは【長唄メモ】トップページをご覧ください。


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