神 田 祭
明治四十四年(1911)十月
作詞 幸堂得知
作曲 四代目 吉住小三郎 三代目 杵屋六四郎

〈本調子〉 
神田祭を待つ宵の 神酒所に活けた女夫花 誰が手ずさびか白菊と 黄菊の露も新しく
飾る名家の金屏風 ゆきかひ繁き辻々に 重ね言葉も聞き慣れた 御祭礼お祭り番付 
八つ八通りに変はる文福茶釜 七つの鐘はいつうったやら 

〈二上り〉 
ほのぼのと 白み渡りて東天紅 一番鶏は泰平の 御代を祝うて苔むす諌鼓 
二番の鉾は 馬れき神 まさる目出度き装束烏帽子 ドンドンカッカ ドンカッカ 
続く三番 式として 翁の楽車は神田丸 五番十番つぎつぎに 町年番の附祭り 
住吉おどり 大神楽 屋台囃子は吉住と 杵屋が待ちの菊がさね 所望所望に手古舞の達衆が応の声につれ
渡り拍子を打ち上げて 

〈本調子〉 
昔より恋という字は誰が書き初めて 迷いの種を蒔きぬらん 
忍ぶ夜は風も吹きそろ雨も降り候 憎や咎むる里の犬 まがきに寄ってほとほとと 
叩けば菊に置きあまる 露はぱらりとみな散りぬれど 同じ思ひに待ちわびし 
姫は扉に立出て いざこなたへと伴へり 夜風に御身も冷えぬらん 心ばかりに侍れども 
妾が儲けの菊の酒 きこしめせやと盃の 数重なればうち解けて 愛と愛との相生連理 
よその見る目も羨まし 後の所望は 会釈なく 数番の花車に 追はれ追はれて 

〈二上り〉 
ヤーリヨー 黄金花咲く豊かな御代に ソレ締めろやれ中綱 エーンヤーリョー 
伊達も喧嘩も江戸の花 その花笠の咲き揃ふ 桜の馬場へだうだうと 
寄せ来る人の波間より 光まばゆく昇る日の影