寒山拾得
明治四十年(1907)九月
作詞 坪内逍遙
作曲 四代目 吉住小三郎 三代目 杵屋六四郎
[謡ガカリ]
 ここに寒巌に居して 既に経たる幾何年 棲遅して観自在なり 時に歌曲を口ずさんで 

〈本調子〉 
世のうきふしは白雲の 寂々たるたたずまひ 石を枕に芝草を いつも敷き寝のつれづれは
古き仏の書を友 暦なけれど花に知る 春は提籃に早わらびを 秋は木の実をとりどりの 
この山間の楽しみよ 我が身ながらに羨まし 
聞けよ君 泉が撫ずる伯が琴 子期ならなくに我ならで 誰わきまへんこの調べ 面白の楽の音や [楽合方]
いざ酌まん 泉に湧ける甘き酒 瓢に酌みて飲まうよ 

〈二上り〉 
大海の 水に辺は無きものを 寄り来る魚の千万が 同じ餌食にうち群れて 相食?す癡肉団
悟らねばこそ妄執の 雲間にかすむ 月の影 

〈本調子〉
 出たわ出たわ お月どのが出たわ 万年昔の山々は 今も見る山々 
万年昔の渓々は 今も見る渓々 万年昔の月影は 今も見る月影 お婆おぬしはどこからここへ 
父は何者母は誰 父は鎌 母はかっちり火打ち石 飛んだ火花が 主か おれじゃ おれじゃ 主じゃ
お爺おぬしはいくつになりゃる おれは虚空と同い年 なんの虚空は死にゃろとままよ 
山河大地をわが子に持てば こちは変わらでいつまでも 
浄?々赤洒々 浄?々赤洒々 浄?々赤洒々 
山深く月澄みて 颯々たる松の風 水音清き岩陰に 鶴の翼を休めける