今様望月
明治十五年(1882)六月
作詞 河竹 黙阿弥
作曲 三代目 杵屋正次郎
[大薩摩]〈本調子〉 
それ白雲峰を覆ひ 青巌聳えし山頭より 漲り落る清泉の 谺に響く水の音 
心耳を澄ます幽谷に 今を盛りと咲満ちし 牡丹の花の香を慕ひ 戯れ遊ぶ猛獣の 姿を写す谷川や

〈二上り〉 
峰を仰げば千丈の 雲より落つる瀧の糸 巌に眠る荒獅子も 牡丹に心和らぎて ともに狂ふぞ面白き

〈本調子〉 
吉野龍田の花紅葉 更科越路の月雪 眺め明石の浦船も 風のまにまに真帆片帆 
磯の千鳥と見る目の関を 小動の橋田子の浦 富士の煙の絶間なく つれなき人を松島や 
天の橋立切戸の文殊 切れとは嬉しき名所かな 妙なりや 獅子団乱旋は時を知る 雨村雲や奏すらん 
[狂ヒ合方]
余りに秘曲の面白さに なほなほ巡る杯も 舞も進めばいとどなほ 眠りも来るばかりなり 
物々しやと立ちかかる 獅子団乱旋の舞楽のみぎん 大巾利巾の獅子頭 うてやうてや 
又は八撥はつちを打てやと引きすゆる 獅子の座にこそなほりけれ