角 兵 衛
文政十一年(1828)九月
作詞 二代目 瀬川如皐
作曲 四代目 杵屋三郎助(後の十代目六左衛門)
〈二上り〉
神楽囃して 町々巡る 同じ世渡り 梅咲くや
笠の中さへ覗かれて 人も見送る愛嬌は てんとおてんと 天から落ちた天人か 
わっちゃいややの なに馬鹿らしい とてもいろにはこんな身で 成駒やならそれこそは 
こっちも首たけ濱村屋 なぶらしゃんすな 世は情け 旅ぢゃなけれど道連に 
なるとはなしの 後や前 ゑっちり越後の 山坂越えて 来て見りゃほんに江戸の花 
いつも黄金のまっ盛り 花に浮かれりゃ咽喉さへかわく 酒がな欲しや さりとては 
まだまだイヤハよいとなよいとな 獅子の洞入り洞返り すめぢゃ互の思ふこと 
岩木ならねば恥しの 森の烏か鷺ならせめて 一とつ塒にオオうれし 
待ちな町々御ひいきの 若者育てるとほりもの さばくは年の高麗屋 宵の仲人の花に酒 
持せて奥へ走り行く こんなぶざまの真実は お前のお気に入りたさの 蟻の思ひも天とやら 
どうで女房にゃなられぬけれど せめてやさしいお言葉に あまえた女子ぢゃないかいな 
云うてもおくれな月がたの 田舎者ぢゃとおなぶりか 思ひくらべをせうならば 
浅間の煙と煙草の煙 やにはに惚れた正直男 また嘘らしい 真顔で人を 
たまさかも ほんに添ふなら山の奥 千尋の海の離島 二人暮らさば都も同じ 
嬉しい世帯であるぞいな あるはいやなり思ふは奈良の 木賃の銭さへまだとれぬ 
遊び過ごして 風ひいた うっかりのろさのお恥かし ほんに茶化した獅子舞さん 
わっちもそんなら 地廻りの伝法肌でひやかしの 
[ナゲ節] 

親兄弟にまで見はなされ あかの他人の契情に 可愛がられう筈はなし 
オヤ 聞いた様だよ 籬のすががき せつかひで かき廻したる てんてつとんだ 間夫と客 
仇な恋路の色里通ひ 夜は軒端に立ちつくす エエ待つわいな お部屋の目顔が有るわいな 
無理な首尾して逢うたが憎いかへ さりとては 恋には粋も愚痴になる 是は五色の色の外 
柴田五万石あらそとままよ 新潟通ひがやめらりょか きさく悪性が浮世にゃ徳で ねまり地蔵へ色の願 
はだし参りの土ふまず 内の嚊どの癇癪おさへて 夜まも昼まも三度ぐり 
さのせさのせさのせっせのせ せったら黄粉の稗団子 搗いてほし 
おきのエ 沖の題目波に浮かんで風に揺られて 朝日に輝く 夕日がたなびく 
南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 あじょだが当世ひねりがはやる 
客と女郎衆の機嫌気づまも逆竹 幸浜三里を乗るとても 米山三里を乗るものか 
さまはナアエ 八つ目のある鰻の性で ぬらりくらりと気が多い 国の訛の笑ひ草 
身の生業は八百八品 八百八町御贔屓の お恵願ふ お取立 仰ぐ舞台ぞ千代の寿